土井晩翠が滝廉太郎をうたった詩

ドイツを去りて東海の
故山に病みてかえる君
テームス埠頭送りしは
三十余年そのむかし
ああうら若き天才の
音容今も髣髴と
浮かぶ皓々明月の
光の下の岡の城
二人は一度しか会ったことがないそうです
荒城の月
土井晩翠
  春高樓の花の宴
  めぐる盃かげさして
  千代の松が枝わけいでし
  昔の光いま何處
 
  秋陣營の霜の色
  鳴き行く雁の数見せて
  植うる劔に照りそひし
  昔の光いまいづこ
 
  今荒城のよはの月
  替わらぬ光たがためぞ
  垣に殘るはただかつら
  松に歌ふはただあらし
 
  天上影は替らねど
  榮枯は移る世の姿
  寫さんとてか今もなほ
  鳴呼荒城のよはの月